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石川伸一 研究室

ISHIKAWA Shin-ichi's Gastronomy Lab

ガストロノミー研究室では、味覚を通して「わたし」と「世界」の関係を問い直します。
おいしさは、記憶や感情、文化や他者と結びつく深い感覚。
「なぜこれをおいしいと感じたのか?」という素朴な問いから、身体・感性・存在へと広がる探究を行います。
科学と詩、分析と共感のあいだで、おいしさの構造と意味を静かに見つめ直す場所です。

おいしさをめぐる七つの問い

Seven Meditations on Deliciousness

第一の問い

なぜ、おいしさは、生きているという実感に触れるのか?

おいしいと感じたとき、

言葉より先に、からだが世界に「はい」と応えている。

その一瞬に、

私たちは生きていていいと、深く、静かに赦されているのかもしれない。

 

第二の問い

なぜ、味は、記憶の扉をひらくのか?

ある一口が、

遠い日の声や、におい、光、沈黙を呼び戻す。

味とは、私のなかにある、

まだことばにならない過去と出会う場所なのだろうか。

 

第三の問い

なぜ、ひとと共に食べると、味は変わるのか?

孤独に食べるパンと、

誰かと分け合うスープは、

たとえ同じ材料でも、

決して同じ“味”にはならない。

味は、関係のなかで、かたちを変える。

 

第四の問い

味には、どうして文化の記憶がしみこんでいるのか?

出汁のやわらかさ、

香辛料の輪郭、

歯ごたえに刻まれた季節のうつろい。

料理とは、土地と時間が重なりあってできた、

ひとつの言葉ではないだろうか。

 

第五の問い

おいしさは、測れるものなのか? それとも、詩でしか語れないものなのか?

甘味、旨味、温度、食感。

私たちはそれを数で語るけれど、

忘れられない“あの味”は、

どこかもっと深い場所に、そっと宿っている気がする。

 

第六の問い

味わうとは、人間だけの感覚なのだろうか?

虫も、菌も、いつか機械も、

何かを選び、好み、応じているように見える。

もしも「おいしい」が、世界とつながるひとつの方法だとしたら――

その感覚は、私たちだけのものではないのかもしれない。

 

第七の問い

私はなぜ、これを「おいしい」と思ったのか?

それは、私のどこからやってきたのか?

幼い日の記憶?

癒えぬ傷?

それとも、まだ出会っていない誰かの味覚?

おいしさを問うことは、

私という存在の、いちばん奥にふれる問いなのかもしれない。

 

結びにかえて

問いは、答えを求めるためのものではなく、

世界との関係を、少しだけ深くするためにある。

あなたの「おいしい」は、

どこからやってきて、どこへ向かうのだろう?

Image by Markus Spiske

経歴

石川 伸一(ISHIKAWA Shin-ichi)

宮城大学 食産業学群 フードマネジメント学類 教授

東北大学農学部卒業。東北大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)などを経て、現在、宮城大学食産業学群教授。専門は、分子調理学。関心は、食の未来学。 researchmapamazon著者ページ。連絡先はこちら

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©2025 by ISHIKAWA Shin-ichi's Food Future Lab.

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